リオパラリンピック陸上、大会11日目、パラリンピック初開催となった視覚障害T11/T12女子マラソンに出場した近藤寛子選手は、安定したペースでレースを進めると、40キロまでの5キロで最速ラップをマークし、3時間23分12秒で5位入賞を果たしました。
日本選手は、近藤選手を含む3名が出場し、道下美里選手が3時間06分52秒で銀メダル、西島美保子選手は、35キロ手前で途中棄権でした。
【自己記録を出した時よりも上回った、40キロまでの5キロラップ】
フルマラソンで記録を出すには、終盤に若干ペースが落ちたとしても、基本はイーブンペース。そのためには序盤は少し遅いと感じるペースで入ることを心掛ける必要があります。
特に暑熱下で行われる場合、オーバーペースは、後半での脱水症状や痙攣を引き起こし、単なるペースダウンにとどまらず、途中棄権につながる可能性がさらに大きくなります。
パラリンピック代表を勝ち取った今年2月の別府大分毎日マラソンでは、3時間18分05秒の自己記録をマークした近藤選手。今大会では、記録は5分ほどその時を下回ったものの、その中身には目を見張るものがありました。
両大会の後半のタイムに注目すると、別大マラソンの後半は1時間40分02秒だったのに対し、今大会では1時間40分40秒。
前後半のタイム差は、別大マラソンが1分59秒でしたが、今大会はわずかに8秒。
中でも、特筆されるのは、今大会での終盤のラップタイム。
別大マラソンの35キロ~40キロの5キロは23分47秒でしたが、今大会は23分18秒。
これは、近藤選手の今大会での最速ラップになりました。
長距離・マラソンの結果は、気象コンディションに大きく左右されるため、記録だけでは一概に評価できない面があります。
気温約30度・湿度約70%の高温多湿下で行われた今大会の視覚障害女子マラソン、この環境下で、最も好結果を引き出せるレース運びをした近藤選手の走りは、記録以上にかなりの評価ができるものだったでしょう。
なお、今大会で完走した日本の視覚障害男女マラソン選手は、近藤選手同様、35キロまでは安定したペースを刻み、そこからペースを上げていきました。
これは、気象条件を考慮したアドバイスを元にしたものだったでしょうが、それを可能にしたのは、レース展開を想定したトレーニングと、順調な調整を抜きにしては語ることはできないでしょう。
【独走で初代金メダリストに、コングスト選手】
パラリンピックでの女子視覚障害マラソンの初代金メダリストの名を刻んだのは、1500mでは2012ロンドンパラ銀メダルなど、数多くの輝かしい成績を残してきたエレナ・コングスト選手(スペイン)。
パラリンピックで視覚障害女子マラソンの実施を耳にすると、歴史を作りたいとマラソンに転向。5000mを17分40秒50(世界記録/2014年)の走力を生かし、2015IPCマラソン世界選手権では銀メダル(3時間02分50秒)。
そして、今大会では、この暑さにも関わらず、3時間01分43秒の自己記録をマークしての金メダルに輝きました。
一方、エントリーランキングは、コングスト選手を上回るトップのタイムだった日本の道下選手、しかし、コングスト選手には2015IPCマラソン世界選手権では36秒差で敗れていました。
序盤から自分のペースをキープし、落ちてきた選手を抜いていくものの、コングスト選手との差は広がる一方。近藤選手同様、35キロからの5キロラップを最速でカバーするも、そこからも差を少し広げられ、3時間06分52秒の2位。
とはいえ、優勝したコングスト選手に立ち向かっていこうとすれば、他の選手のようにオーバーペースで自滅していた可能性があり、銀メダルの勝因は、自分のペースを貫くことができたことかと思います。
ランキング通りの銅メダルを獲得したのは、エドネーサ・ド・ヘスス・サントス・ドータ選手(ブラジル)。
中間点を2位で通過するも、その後はペースが急落して3位。40キロ地点では、後続のジェン・ジン選手(中国)に5分差をつけていましたが、キロ6分30秒にまでペースが落ちて、フィニッシュ地点では、その差が1分にまでなっていました。
しかし、先にフィニッシュした2選手よりもはるかに大声援を受けて、地元の期待に応えました。
続いてフィニッシュしたジェン選手は、前日夕方の1500m決勝で、自身の持つ世界記録を5秒も更新する4分38秒92の世界記録で金メダルを獲得していました。
その翌朝のマラソンでも、キロ4分40秒~50秒の安定したペースを刻み、T11女子クラスの世界記録3時間19分46秒につなげました。
■公式結果
T12女子マラソン決勝(*T11/T12コンバインド)
陸上11日目/9月18日 9時00分競技開始
1位 エレナ・コングスト(スペイン)3時間01分43秒
2位 道下美里(日本)3時間06分52秒
3位 エドネーサ・ド・ヘスス・サントス・ドータ(ブラジル)3時間18分38秒
4位 ジェン・ジン(中国)3時間19分46秒*T11女子世界記録
5位 近藤寛子(日本)3時間23分12秒
途中棄権 マリア・デ・カルメン・パレデス・ドミンゲス(スペイン)
途中棄権 西島美保子(日本)
[先頭の通過]
5キロ コングスト 21分37秒
10キロ コングスト 43分16秒
15キロ コングスト 1時間04分41秒
20キロ コングスト 1時間25分59秒
中間点 コングスト 1時間30分41秒
25キロ コングスト 1時間47分23秒
30キロ コングスト 2時間08分46秒
35キロ コングスト 2時間30分40秒
40キロ コングスト 2時間51分54秒
[気象コンディション]
スタート時 天候晴 気温23度 湿度89%
終了時 天候晴 気温28度 湿度66%
[結果へのリンク]リンク先はpdfファイルです
https://www.paralympic.org/athletics/results/info-live-results/rio-2016/resIPC/pdf/PG2016/AT/PG2016_AT_C73K_ATWM12101.pdf
■近藤選手の通過順位とタイム
*カッコ内はラップタイム
5キロ 7位 24分37秒
10キロ 7位 48分20秒(23分43秒)
15キロ 7位 1時間12分20秒(24分00秒)
20キロ 7位 1時間36分08秒(23分48秒)
25キロ 7位 2時間00分25秒(24分17秒)
30キロ 6位 2時間24分33秒(24分08秒)
35キロ 5位 2時間48分49秒(24分16秒)
40キロ 5位 3時間12分07秒(23分18秒)
フィニッシュ 5位 3時間23分12秒(11分05秒)
中間点 7位 1時間41分32秒
フィニッシュ 5位 3時間23分12秒(1時間41分40秒)