和田選手、3種目全てで入賞。マラソンで5位

リオパラリンピック陸上、大会11日目、視覚障害T11/T12男子マラソンに出場した和田伸也選手は、このレース終盤、自分の全てを出し切る素晴らしい走りで、2時間36分50秒での5位入賞を果たしました。

和田選手を含む3名が出場した日本人選手は、岡村正広選手が2時間33分59秒で銅メダル、堀越信司選手は2時間36分50秒で4位と、岡村選手を筆頭に、日本人選手が5位までに3人続けてフィニッシュしました。

【とにかく全てを出し切って終えると決意した、35キロ地点からの激走】

この大会に、和田選手は日程順に5000m・1500m・マラソンに出場。車イスの選手では、中長距離マラソン3種目エントリーは特に珍しくなく、それ以上の種目に出場する選手もいますが、立位の選手ではきわめて稀です。

今回、このようなエントリーをしている選手は、和田選手以外には、ライバルのクリスチャン・バレンズエラ選手(チリ)のみ。しかし、バレンズエラ選手は、5000mを棄権した後は、傷めていたふくらはぎを1500mで悪化させ、マラソンは欠場となりました。

さて、日なたでの気温が35度を超えたこの大会、和田選手のレースプランは、日本チームのコーチのアドバイス通り、前半は自重、勝負は35キロから。具体的には、35キロまでは、いつもより1キロ当たり10秒以上ペースを落として、キロ3分50秒~55秒ペース。

一方、結果的に無理なペース設定により途中棄権を余儀なくされた選手がいたため、プラン通りの走りをしていた和田選手は、順位が5位に繰り上がり、35キロ地点を迎えます。

途中棄権した選手が「コースには日陰もなく、道路は熱したフライパンのようで、まさに地獄だった」と語ったようなレース、いくら設定通りのペースとはいえ、和田選手に、決して余裕があったとはいえませんでした。
しかし、それでも気合いを入れてペースを上げると、自身でも驚くような力を出します。

35キロまでの5キロを19分27秒に対し、その40キロまでの5キロは、これまでの最速となる17分15秒。これは、優勝した選手よりも速く、全選手中2番目のタイムでした。

もう順位やタイムのことは考えず、今走っているマラソンだけでなく、3種目に出場したこの大会そのもののゴールとして、4年間積み上げてきたものを、ここで全て出し切ろうと決意したラスト7キロ。

あと400mで相次いで両脚が攣ってしまったものの、それまでの気迫そのままに脚を動かし、2時間39分52秒の5位でフィニッシュラインを越え、自身のこの大会を締めくくりました。

[今大会の和田選手の成績]
2016リオディジャネイロ大会
 1500m(予選)4分16秒12/当時の日本新
    (決勝)4分15秒62/6位入賞・日本新
 5000m(決勝)16分02秒97/6位入賞
 マラソン 2時間39分52秒/5位入賞*T11・12コンバインド

‐補足‐
今大会のマラソンはT11(全盲)とT12(弱視)のコンバインドで実施され、T11の和
田選手は、全体では5位でしたが、T11クラス(出場選手3名)の中ではトップでした

同一部門での全盲と弱視の競技は、全盲が不利なことは明白ですので、マラソンも15
00mや5000m同様、T11クラス単独での実施が理想です。

しかし、競技を成立させる(=メダルの対象種目となる)には、一定基準の参加国数
・出場人数を満たす必要があり、マラソンでT11クラス単独実施を実現させるには、
現状よりもさらに、出場国と選手数を増やす必要があります。

なお、T12は同じ弱視のT13クラスとコンバインドにすればいいはずだ、との考えは当
然でしょうが、現時点では、T13クラスのマラソン選手はT11よりも少なく、今大会で
は競技が実施されませんでした。

とはいえ、陸上競技の結果は、勝負だけでなく記録の面でも評価され、メダルは難し
くても、世界記録(いつかは元保持者になるにしても)で名前を残すことも可能です

現在のT11男子マラソンの世界記録2時間31分59秒に対し、和田選手の自己記録は2時
間33分46秒。
世界記録更新が可能な位置にいる和田選手、5000mのスピードがあるうちに、世界記
録を狙うことになるでしょう。

【シェントフ選手、世界大会3連覇】

30キロ地点で、後続に1分差をつけてトップにいたグスタボ・ニエベス選手(スペイン)。しかし、暑さに倒れてしまい、有力選手では2人目の途中棄権。

一方、ちょうどこの付近からは、マラソンの勝負所。

それまで3位の位置で勝機を窺っていたT12クラス世界記録保持者エル・アミン・シェントフ(モロッコ)選手が、2012ロンドンパラ金メダリストのアルベルト・スアレス・ラソ(スペイン)選手を逆転し、そのままトップを譲らず、2時間32分17秒で金メダル。

これで、2013・2015世界選手権、そして今大会と世界大会マラソン3連覇を達成。
また、この3日前のT13男子5000mの銀メダルと合わせて、シェントフ選手は今大会で2個目のメダル獲得となりました。

既に暑さで体力の限界近くにあり、優勝の望みが遠のいていったスアレス・ラソ選手。途中棄権を避けるべく、銀メダル確保を目指すことを選択し、シェントフ選手の54秒後にフィニッシュ。

3,4,5位は、「前半は自重、勝負は35キロから」の作戦通りに、暑さを考慮しての後半勝負のペースを選択し、チャンスを我慢強く待った日本勢が続きました。

35キロまでは5キロ18分20秒(キロ3分40秒)ペースを刻んでいた岡村正広選手は、次の5キロを17分00秒(キロ3分24秒)にまで上げるロングスパートで銅メダルを決定づけ、2時間33分59秒でフィニッシュ。

30キロ過ぎまでは岡村選手と並走していた堀越選手は、その後の転倒で、走りのリズムを崩したためか、勝負所としていた35キロを前に、岡村選手に引き離されて4位(2時間36分50秒)。

そして、15キロ以降ずっと、ガブリエル・マッチ選手(ポルトガル)に1分差での追撃を受けていた和田選手は、最後の7キロをマッチ選手よりも3分も速いタイムでフィニッシュゲートに突き進み、5位入賞を勝ち取りました。

■公式結果 陸上11日目/9月18日
T12男子マラソン決勝(*T11/T12コンバインド)9時00分競技開始
1位 エル・アミン・シェントフ(モロッコ)2時間32分17秒
2位 アルベルト・スアレス・ラソ(スペイン)2時間33分11秒
3位 岡村正広(日本)2時間33分59秒
4位 堀越信司(日本)2時間36分50秒
5位 和田伸也(日本)2時間39分52秒
6位 ガブリエル・マッチ(ポルトガル)2時間43分49秒
7位 ジョージ・ピナ(ポルトガル)2時間55分47秒
8位 サンディ・ノバック(スロバキア)3時間02分36秒
途中棄権 グスタボ・ニエベス(スペイン)
途中棄権 エルキン・アロンソ・セーナ・モレノ(コロンビア)
失格 ガド・ヤーコニ(イスラエル)

[先頭の通過]
5キロ スアレス・ラソ 17分38秒
10キロ グスタボ 35分28秒
15キロ スアレス・ラソ 53分12秒
20キロ グスタボ 1時間10分47秒
中間点 グスタボ 1時間14分40秒
25キロ グスタボ 1時間28分19秒
30キロ グスタボ 1時間46分01秒
35キロ シェントフ 2時間05分34秒
40キロ シェントフ 2時間23分31秒

[気象コンディション]
スタート時 天候晴 気温23度 湿度89% 
終了時 天候晴 気温28度 湿度66% 

[結果へのリンク]リンク先はpdfファイルです
https://www.paralympic.org/static/info/rio-2016/resIPC/pdf/PG2016/AT/PG2016_AT_C73K_ATMM12101.pdf

[和田選手の通過順位とタイム]*カッコ内はラップタイム
5キロ 7位 18分56秒 
10キロ 7位 38分05秒(19分09秒)
15キロ 7位 56分55秒(18分50秒)
20キロ 7位 1時間16分12秒(19分17秒)
25キロ 7位 1時間35分23秒(19分11秒)
30キロ 6位 1時間55分03秒(19分40秒)
35キロ 5位 2時間14分30秒(19分27秒)
40キロ 5位 2時間31分45秒(17分15秒)
フィニッシュ 5位 2時間39分52秒(8分07秒)

中間点 7位 1時間20分28秒
フィニッシュ 5位 2時間39分52秒(1時間19分24秒)