タンデム自転車でシクロクロスに挑む ―― 豊中のF場さん

こんにちは。わーわーずホームページのインタビュー記事担当のHです。

大阪府豊中市にお住いのF場さんは、毎年の駅伝大会でわーわーず最速チームに加わり、区間賞を狙える走りを披露してくれています。
そのF場さんがここ数年、活動に力を入れられているのがタンデム自転車(以降タンデム)競技です。

タンデムといえば、パラトライアスロンで視覚障がい選手がバイクパートをこなすのに必要な手段、という位置づけで見聞きすることに始まりましたが、今(2023年2月現在)では東京都をのぞく全国での公道走行が認められたことも手伝って、レジャーのひとつとして普及しつつあります。例えば、レンタサイクルでタンデムを借りて、健常者2人で乗って観光地をめぐる、というように。

F場さんは、このタンデムでさらなる新世界を拓いていこうとされています。それが「タンデムでシクロクロスに挑む」です。
そして、弱視ゆえの限られたアクテビティの枠に囚われない、最大限アクティブなチャレンジを楽しまれています。

シクロクロスとはなにか、まずはこの動画をご覧ください。


 
動画の説明:
2023年2月5日、場所は桂川久我橋近辺の河川敷。関西シクロクロス第10戦カテゴリーCCで参戦したF場さんペアのレース模様です。
トップが最終周回にはいったことを知らせる鐘が鳴り響いています。広い草地に杭を立ててロープで囲い、コースが作られています。コース幅は3mほど。画面の箇所は、シケインと呼ばれるバリア区間です。地面から板が間をあけて2か所で立ち上がっていて、板の手前で選手は自転車をおりて担いで走って、越したところで素早く乗ってこぐ、という動きを強いられます。
ソロバイクの選手が越していったあと、タンデムのF場さんが奥から来ました。パイロットはM永さん。自転車・ランを通してペア経験豊富なパートナーです。
板に近づいたところで、いつのまにか二人とも降りていて、無駄のない最小限の高さでタンデムと選手が板を越していき、2枚の板を越したあと、選手はいつのまにか飛び乗ってこいで走り去っていきました。
自転車が一瞬も止まっていません。慣れないパイロット(前の選手)はタンデムにまたがるだけで苦労するものですが、軽捷の極み!ペダルのほうが足裏を吸い寄せたかのように、走っていた足が踏み込む足に移っています。ストーカー(後ろの選手)も同じで、タンデムの一番スムースな流れを全く乱すことなく、選手自身が追従しています。状況は受け身ですが、思考と行動ははげしく能動的でなければ務まらないであろうストーカーの重要な役割がみてとれます。
2人と1台はまさに一体化していました。
動画撮影のあと、コース脇で観戦者がつぶやいてました。「あの後ろの選手が視覚障がい者なんやって、信じられへん」

「もうスマホの字が読めなくなりました。」
そう言って電話をときどきかけてくるF場さんからの着信に、最近とんと音声通話をしなくなった私は、不意をついて鳴る着信音に今改めて恐れつつも、そういう古風な手段で連絡を取り合う友達がいることを嬉しく思ってもいます。
「メールは?あるいはMessengerは使えます?」とSNS他の連絡方法を提案しても環境を整えることが追いついてないようで「SMSはコントラストが良くてかろうじて」と。
課金のかかる通信手段でいろいろ情報を毎度教えてくれるので申し訳ないです。

以前F場さんと食事をご一緒にしたとき、値段の割に旨いコスパ抜群のどんぶり屋を紹介してくれました。夢と楽しみへの投資は惜しまないけど、無駄な出費は嫌いなF場さんであることはよく知っていますので、『ほんとに見えてないんだな』と私も自分に念を押せるのです。
あの、おもいっきりアクティブな乗り方をするタンデムストーカーの姿をみたら、誰しも『えっ?見えてないの』と(失礼ながら)疑いたくなるのもわかります。

単刀直入に聞いてみました。
「ほとんど見えない状況下で、数々のバリアを越すのはどんな感じですか?」
「シクロクロスは一周が2キロ以内と短くて同じところを何度も通るから、試走のときにコースの特徴を覚えて。んー、あとは勘ですね。」
「階段で、これが最後の段だと、わかって踏んでます?」
「それもほとんど勘ですね、踏み外しもしょっちゅうですけど。」
そう言われると、担いでいる自転車の傾斜角度や、パイロットが動作を移すタイミングとか、見えてなくても情報源はあるかも、と気づかされました。

「おもしろさはなんですか?」
「一般のひとたちに混じって競いあえることです。
 視覚障がいの種目になってしまうと参加人数は減り、
 場合によっては自分だけしか参加者がいないなかで競技するということもあります。
 それは一番つまらないです。
 タンデムはパイロット・ストーカーともに健常者で参加することもできますし、
 別カテゴリーであれ、前後するソロバイクの選手たちと常に競いあっています。
 いまは大会の主催者様と交渉して実験的な参加で走らせていただいてますが、
 来シーズンはタンデムカテゴリーの新設が決まりました。
 もちろんそれは視覚障がいに関係なく参加できるものです。
 僕の参加実績で、レースの安全運営が確認されて、タンデムの走りを観戦するおもしろさが伝わって、
 いよいよ来年は、誰でもタンデムで参戦することもできる。
 そしてシクロクロス大会全体がいっそう盛り上がっていってほしい。いや、盛り上がっていきます。
 自分がそいうことに係われていることが嬉しいです。」

たしかに拮抗するライバルが登場しないスポーツ漫画など考えられません。
「タンデムでシクロクロス」には未開拓なところがたくさんあります。ちょうどコースが未舗装路なのと同じように。
F場さんは、ヘアピンではスト-カーもハンドルさばきでコーナリングに協力できるとか、フロントにサスペンションを装備してどうこうとか、これまでの参加で培ったノウハウを周りの方にいろいろと教えていました。
その様子をみて、私なりに彼が楽しんでいるおもしろさがわかりました。
競って勝つことが目的ではなく、どうすれば勝てるのか、考えて工夫して実証する、そのプロセスこそが魅力であり、成長する自分と向き合える貴重で楽しい機会なんですよと。
なかなか一筋縄では乗りこなせないタンデムだからこそ、工夫と成長の余地が豊富にあるのだと想像します。

シクロクロスのタンデムカテゴリーとF場さんの活躍に今後注目したいと思います。

またF場さんからメッセージを預かっています。
「もしタンデムでシクロクロスに興味を持たれた方がいたら、イベント参加への段取りをご案内したり、シクロクロスでのタンデムの乗り方をアドバイスしたりできますので、お気軽にご連絡ください。」とのことです。
HP経由の連絡口も開設しておきます。連絡をとりたい方はこちらの連絡フォームからどうぞ。

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参考リンク・タンデム関連リンク:
Wikipediaの「シクロクロス」
シクロクロスの概要がわかります。

●関西シクロクロス公式ブログ https://kansaicross.com/
関西圏でシーズン10戦のシクロクロス大会を開催されています。

●KHSミラノ https://www.khsjapan.com/products/tandem_milano/
タンデムフレームを販売されています。

●あおぞら財団 http://aozora.or.jp/
タンデム自転車の貸し出しをされています。

●サイクルショップ銀輪亭 http://www.ginrintei.sakura.ne.jp/
F場さんがお世話になっている豊中の自転車ショップ。

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関西シクロクロス大会・会場風景
練習タイムで自分なりの攻略課題を克服する(桂川)
▲ 試走時に各自の攻略課題を克服する(桂川)

シケインを越す女子ペア(桂川)
▲ シケインを越すタンデム女子ペア(桂川)

タンデムでエントリーされた選手たち(桂川)
▲ タンデムでエントリーされた4組8名の選手たち(桂川)

堺浜大会のシーン
▲ 堺浜大会(2023.1.22)。会場によってコースの特徴はさまざま。