ドーハ2015IPC陸上世界選手権での和田選手と谷口選手

2015年10月22日~31日に、カタールのドーハで開催されたドーハ2015IPC陸上世界選手権に、長居わーわーずメンバーの和田伸也選手と谷口真大選手が日本代表として出場し、和田伸也選手がT11男子5000mで銅メダルを獲得、谷口真大選手は、同5000mでは和田選手に続く4位、T11男子1500mで は5位に入りました。

今大会は10月末に開催され、近畿地方では、紅葉の季節が始まろうかとしている頃ですが、ドーハは、最高気温が連日35度近くに達する暑さで、まるで大阪の夏。環境が大きく変わる地のレースになるため、両選手にとっては、レースでの暑さ対策だけでなく、現地でのコンディション調整も求められました。

■サバイバルレース5000m 和田選手銅メダル 谷口選手4位

大会5日目10月26日のT11男子5000m、スタートラインに立った選手は、この種目でのパラリンピックや世界選手権でのメダリストが5人も顔を揃え、ここ2年のタイムでは、和田伸也選手・谷口真大選手にとって格上の選手の中でのレースとなりました。

予想通りの現地の蒸し暑さの中、勝負重視の戦略的な展開になるかと思われましたが、いざレースが始まると、予想外の展開となり、それがレース中の様々な出来事を引き起こしていきます。

まず、この暑さの中、大会記録保持者で、自己記録15分16秒87は出場選手中トップのサントス・オダイール選手(ブラジル)が、最初の1000mを、2分57秒の世界記録更新ペースでの独走し、意外な形でレースの幕が開きます。
一方、和田選手・谷口選手の日本選手2人は、それぞれ1000mを、3分14秒・3分22秒と、定石通りの前半自重の作戦で通過し、出場選手の中では後方につけました。

しかし、2013年世界選手権5000m銅メダリストのアルベス・ヌーノ選手(ポルトガル)が、脚の負傷のために800m付近で途中棄権すると、ここからはサバイバルレースの様相を見せることになります。

この種目は、日没から約1時間後、照明がトラックを煌々と照らす夜空の下で始まりましたが、スタートから5分の時点で選手は既に汗だく。空気の重さだけでなく、走っているうちに息苦しさまでも感じるような気温30度以上の蒸し暑さが、オーバーペースで走っていた選手を苦しめ始めます。

今年5月の国際大会で、2012ロンドンパラリンピック5000m銅メダリストの和田選手に勝利していたカカー・ハッサン・フセイン選手(トルコ)は、格上の選手に相手に果敢に3位争いを挑んでいたものの、2800m付近では足どりが重く、突然倒れて途中棄権。
そして、さらにもう一人の選手も棄権しており、暑さの中、ペースが保てなくなった選手がそのまま棄権に追い込まれる過酷な展開に。

棄権者が続けて出る展開に、和田選手と谷口選手の動向が気になりますが、和田選手は3600mを、11分17秒(キロ3分19秒ペース)、谷口選手は4000mを13分36秒(キロ3分24秒ペース)と、いよいよ厳しい局面を迎える3000~4000m付近でも、落ち着いた入りだった序盤の1000mのペースをキープして、我慢のレースを続けます。

一方、トップを独走するサントス選手、ペースは落ちていながらも、4000m付近では、後続の2012ロンドンパラリンピック5000m金メダリストのバレンツェラ・クリスチャン選手(チリ)を20秒、約100mも引き離します。

ところが、これで金メダル確実かに思われた矢先、あと1周のところで、この暑さの中での序盤からのハイペースの疲れにより、サントス選手の勢いが急速に衰えます。
何とか脚を前に出して前に進みますが、まっすぐ走るのがやっと、と事態は暗転。
そして、最後の直線に入る手前、残り100mでサントス選手はついに倒れてしまいます。

ラスト100mでのサントス選手のアクシデントに対する観衆の悲鳴の中、最後の1周400mを1分08秒のスパートを見せたバレンツェラ選手が、最初にフィニッシュラインを越えて、15分52秒64で金メダルを獲得。今季ベストが出場選手中トップのダンカリー・ジェイソン・ジョセフ選手(カナダ)が、それに続いて16分11秒22の銀メダル。

そして、その次にフィニッシュラインに駆け込んできたのは、残り1周を1分13秒でカバーしてきた和田選手。
一時はサントス選手とは約250mもの差をつけられながらも、序盤を慎重に入り、その後は、しっかりとペースを維持する作戦通りの走りを遂行し、16分31秒04で銅メダルを獲得しました。
なお、これで和田選手は、パラリンピック・世界選手権では4大会連続のメダル獲得です。

また、谷口選手も終盤を頑張り、最後の1000mを3分15秒と大幅にペースアップさせて、ラスト1周400mを1分14秒でカバーし、16分51秒39の4位。

暑さで次々と選手が倒れる過酷な条件下、両選手とも、中盤まで作戦通りのペースを維持して終盤をしっかり走り切り、タイムも、この暑さを考慮すると、十分評価できるものでした。

なお、最後の直線で少なくとも3回も倒れたサントス選手は、伴走者に背中を支えられたりしながら、何とかフィニッシュラインにたどりついたものの、これらの行為が伴走者の助力行為とみなされて失格と判定されました。

[和田選手の談話]
格上の選手が多い中、しっかり走れたことが良かった。世界のトップとはまだ差があるので、もっと力をつけたい。
*NHKハートネットTV/Road to Rioブログ 10月27日記事
http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/3300/230422.html

[公式結果]
T11男子5000m
3位 和田伸也 16分31秒04
4位 谷口真大 16分51秒39

参考[和田伸也選手 出場した世界選手権・パラリンピックで獲得したメダル]
2011クライストチャーチ世界選手権(ニュージーランド)
銅/マラソン
2012ロンドンパラリンピック(イギリス)
銅/5000m *アジア記録樹立
2013リヨン世界選手権(フランス)
銀/マラソン
2015ドーハ世界選手権(カタール)
銅/5000m

■1500m 谷口選手、終盤の猛烈なスパートで5位

サバイバルレースとなった大会5日目の5000m、この蒸し暑さの中、16分51秒39で4位に入った谷口真大選手は、そこから4日後の30日金曜に行われたT11男子1500m決勝にも出場しました。

出場選手は、通常よりも1組多い7組(ガイドランナー含む14名)で行われ、5000mでは途中で倒れたりした4名の選手のうち、負傷して途中棄権したアルベス・ヌーノ選手(ポルトガル)を除く3名もスタートラインに立つことができました。

出場選手は、5000m同様、谷口選手にとっては格上の選手が大半ですが、この種目で自己記録を狙うには、臆せず積極的な走りが求められます。

通常よりも多い選手によるスタートとなることから、いつも以上に、スタート時の接触・転倒が懸念される中、スタート直後に、5000mと1500mの2冠を目指すバレンツェラ・クリスチャン選手(チリ)がいきなり転倒。しかし、すぐに立ち上がり、落ち着いて前を追います。

さて、この種目で、自己記録(4分22秒08)の更新を目指す谷口選手は、無難にスタートすると、400mを6番目に、自己記録とほぼ同じペースの1分10秒で通過。イーブンペースで走り、終盤のスパートに期待が持てる谷口選手にとっては、いつもの走りです。

そして、600m過ぎで、今大会この1500mのみの出場で、フレッシュなデニス・スミス選手(トルコ)を逆転して5番目に上がり、谷口選手の700mは2分03秒。自己記録に1秒程度遅れる程度での通過です。

しかし、気温34度の暑さと5000mの疲労の影響が出てきたのか、1100mの通過は、自己記録ペースから5秒程度遅い3分16秒、背後では、今年5月の国際大会で谷口選手に勝っているデニス選手がなかなか離れません。

しかし、谷口選手は、最後の1周400m1分08秒のスパートを放ち、後続との差を大きく広げていきます。そして、勢いよくフィニッシュラインを駆け抜けると、そのまま倒れてしまいましたが、医療スタッフが車椅子を用意するほどの追い込みでした。
それでも、自己記録には2秒ほど及びませんでしたが、4分24秒38で5位に入りました。

なお、優勝はサントス・オダイール選手(ブラジル)で、300mで先頭に立つと、後続を寄せ付けずに、5000mではショッキングなシーンで掌中からこぼれた金メダルを、今度は4分08秒48で確実に手にしました。

一方、最後の1周の鐘を3人でほぼ同時に聞いた表彰台の残り2枠の白熱した争いは、5000mとの2冠を狙ったバレンツェラ選手が銀メダル。それに続いたのは、5000mを途中棄権したカカー・ハッサン・フセイン選手(トルコ)で、アレクサンダー・コサコウスキー選手(ポルトガル)の追い上げを0秒22差でかわしての銅メダルでした。

[谷口選手の談話]
目標としていた1500m自己記録更新はならなかったが、5000m・1500mともリラックスしてレースに臨むことができた。
*NHKハートネットTV/Road to Rioブログ 10月30日記事
http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/3300/230769.html

[公式結果]
T11男子1500m
5位 谷口真大 4分24秒38

大会公式サイト
http://www.paralympic.org/doha-2015